Pegatron製ドライバに脆弱性、BYOVD悪用の恐れ

台湾のPegatron(ペガトロン)社が配布するWindowsカーネルドライバー「tdeio64.sys」に、権限のない一般ユーザーがSYSTEM権限を奪取できる脆弱性2件(CVE-2026-14960 / CVE-2026-14961)が公表されました。米CERT/CCが2026年7月15日に公開したもので、ベンダーからの修正版は執筆時点で提供されていません。JPCERT/CCもJVNで速報版(JVNVU#90340653)を出しています。

ここで押さえておきたいのは、「自社はPegatron製のPCを使っていないから無関係」とは言い切れない点です。この種の正規に署名された脆弱ドライバーは、攻撃者が自分で持ち込んで読み込ませるBYOVD(Bring Your Own Vulnerable Driver)攻撃に転用されるためです。そのため情シスが今日打てる最も効果の高い手は、ドライバーの棚卸しではなく、Windows側のブロックリスト(メモリ整合性/HVCI)が有効になっているかの確認になります。

この記事でわかること

  • CVE-2026-14960 / CVE-2026-14961 の中身と、修正版が無いという状況
  • CVSSスコアを見て優先度を決めると判断を誤る理由
  • 自社製PCの機種に関わらず対処が必要になるBYOVDの構造
  • 該当有無の確認方法と、情シスが取るべき現実的な打ち手

何が起きたのか:署名済みドライバーのIOCTLにアクセス制御不備

tdeio64.sysは、Pegatron社が配布するWDM(Windows Driver Model)形式のカーネルドライバーで、システムのI/Oポートやハードウェアへの低レベルアクセスを提供します。Pegatron社はマザーボードやOEM部品を手がける受託製造メーカーで、このドライバーは各社のPCに保守・診断ユーティリティの一部として同梱される形で配布されます。

問題は、このドライバーが公開する \\.\TdeIo というデバイスインターフェースが、要求元の権限を検証せずに特権的なIOCTL(デバイス制御要求)を処理してしまう点にあります。管理者権限を持たない一般ユーザーでも、細工した DeviceIoControl 要求を送るだけで、本来カーネルにしか許されない操作を実行できてしまいます。

CVE番号 内容 成立時に何ができるか
CVE-2026-14961 IOCTLディスパッチャ経由での任意のカーネルメモリ読み書き 自プロセスのトークンをSYSTEMプロセスのトークンで上書きし、NT AUTHORITY\SYSTEM へ昇格
CVE-2026-14960 TDE_IOCTL_INDEXIO_READ / TDE_IOCTL_INDEXIO_WRITE などのハンドラが、認可チェックなしにハードウェアI/Oポートの読み書きを許可 ハードウェアレジスタの操作、ファームウェア関連インターフェースの改ざん、システム不安定化、低レベルでの永続化

CERT/CCによれば、悪用に成功した攻撃者はSYSTEM権限の取得だけでなく、セキュリティ機構のバイパス、資格情報の窃取、ルートキットの導入まで到達しうるとされています。カーネルの任意読み書きが取れる時点で、そのOS上の防御はほぼ前提が崩れると考えるべきです。

修正版は出ているのか?

いいえ。CERT/CCはPegatron社へ2026年6月10日に通知しましたが、ベンダーからの回答は得られておらず(Vendor Status: Unknown)、公開時点でベンダー提供の修正版はありません。したがって「アップデートを待つ」という選択肢が存在せず、緩和策で凌ぐしかない類の脆弱性です。

CVSSスコアで優先度を決めると判断を誤る

この2件は、スコア駆動の脆弱性トリアージ(例:「CVSS 7.0以上を対応対象にする」)を運用している組織にとって、格好の反面教師になります。

項目 CVE-2026-14960 CVE-2026-14961
NVDによる評価状況 Not Scheduled(NVDは評価予定なし) Not Scheduled(同左)
CVSS v3.1(CISA-ADP付与) 9.8 CRITICAL
AV:N/AC:L/PR:N/UI:N/S:U/C:H/I:H/A:H
6.2 MEDIUM
AV:L/AC:L/PR:N/UI:N/S:U/C:H/I:N/A:N
CWE CWE-269 / CWE-284 / CWE-668 CWE-20 / CWE-269

同じ1本のドライバーの2つの欠陥に、9.8と6.2という3ポイント以上離れたスコアが付いています。しかも両方とも、実態との整合性に疑問が残ります。

  • CVE-2026-14960の9.8:攻撃元区分が AV:N(ネットワーク)になっていますが、CERT/CCの記述は一貫して「ローカルの非特権ユーザーによる悪用」です。AV:L が実態に近いはずで、9.8は過大に見えます。
  • CVE-2026-14961の6.2:カーネルの任意書き込みでトークンを差し替えてSYSTEMを取る話にもかかわらず、完全性・可用性が I:N/A:N(影響なし)になっています。SYSTEM奪取が「機密性のみ影響」で収まるはずがなく、こちらは過小です。

加えて、NVD本体は両方とも「Not Scheduled」=正式な評価を行う予定がないと明示しています。つまり上記の数値はCISAのADP(Authorized Data Publisher)が付けた暫定値であり、今後NVDが精査して直してくれる保証もありません。

実務上の教訓はシンプルです。スコアではなく「成立時に取られる権限の高さ」と「影響を受ける資産の重要度」で判断する。今回は前者が「SYSTEM+カーネル任意読み書き」で最上位、後者は「全社の業務端末」になりうるので、6.2という数字だけを見て後回しにするのは危険です。関連して、脆弱性の実際の悪用可能性を検証する手段についてはペネトレーションテストとは?脆弱性診断との違いを解説も参考にしてください。

「うちはPegatron製PCじゃない」で済まない理由

ここが本件の肝です。脆弱な署名済みドライバーは、そのPCに最初から入っていなくても脅威になります。

Windowsはカーネルドライバーに有効な署名を要求しますが、tdeio64.sysはPegatron社の正規証明書で署名された正当なドライバーです。したがって攻撃者は、すでに侵入した端末にこのドライバーファイルを自分で持ち込んで読み込ませることで、署名チェックを正面から通過させながらカーネル特権を取得できます。これがBYOVD(Bring Your Own Vulnerable Driver)攻撃で、EDRの無効化やランサムウェアの前段としてすでに定着した手口です。手口の全体像はBYOVD攻撃とは?正規ドライバ悪用と最新脆弱性対策で解説しています。

つまり本件の対処は、次の2層に分けて考える必要があります。

  1. 資産側の問題:自社の端末にtdeio64.sysが実際に入っているか(=ローカル権限昇格の踏み台が既にあるか)
  2. OS設定側の問題:既知の脆弱ドライバーの読み込みそのものをブロックできているか(=BYOVDに対する耐性があるか)

1だけを潰しても2が無防備なら、攻撃者は別の脆弱ドライバーを持ち込むだけです。逆に2を固めておけば、今回のCVEに限らず今後出てくる同種のドライバーにもまとめて効きます。投資対効果が高いのは明らかに2です。

実は2023年から知られていたドライバーだった

調べていて意外だったのが、このドライバーは今回が初出ではないという点です。脆弱ドライバーのデータベースであるLOLDriversには、2023年11月2日付でtdeio64.sysが「Vulnerable」として登録済みでした。Carbon Black脅威分析ユニット(TAU)の研究者Takahiro Haruyama氏が2023年10月に公表した、ファームウェアアクセスを許す脆弱ドライバー群(34種)の調査で見つかったものです。

つまり、研究コミュニティでは約3年前から「危ない署名済みドライバー」として名指しされていたのに、CVE番号が採番されたのは2026年7月だったということになります。

これは脆弱性管理の運用に対する、なかなか痛い指摘を含んでいます。CVEとCVSSだけを入力にして脆弱性管理を回している組織では、この3年間、tdeio64.sysは一度も検知対象に上がらなかったはずです。一方でLOLDriversやMicrosoftのブロックリストを情報源に組み込んでいた組織は、CVE採番を待たずに対処できていました。「CVEが出てから動く」という運用の限界がはっきり出た例です。

自社が該当するかを確認する

端末にドライバーが存在するか

資産管理ツールやEDRのファイル検索機能で全社スキャンするのが最も確実です。単体端末ならPowerShellで探せます。

Get-ChildItem -Path C:\Windows\System32\drivers -Filter "tde*.sys" -ErrorAction SilentlyContinue

ファイル名の表記には注意が必要です。JVNやCERT/CCのタイトル、NVDの説明文では「Tdelo64.sys」と表記されていますが、CERT/CCのアドバイザリ本文とデバイス名 \\.\TdeIo、後述するLOLDriversの登録内容から、実際のファイル名は tdeio64.sys(TdeIo+64)と読むのが自然です。大文字のI(アイ)と小文字のl(エル)の取り違えとみられます。1文字違いで「該当なし」と判定しないよう、上記のように tde*.sys のワイルドカードで探すのが安全です。

読み込み済みドライバーの一覧は driverquery /FO LIST /V でも確認できます。ただしドライバーは「インストール済みソフトウェア一覧」には出てきません。多くの資産管理ツールが拾うのはアプリケーションのアンインストール情報なので、OEMユーティリティに同梱されたドライバーは棚卸しの網から漏れます。ファイル名ベースで探す必要があるのはこのためです。

脆弱ドライバーブロックリストが有効か(本命)

Microsoftは「脆弱なドライバー ブロックリスト」を提供しており、Microsoft LearnによればWindows 11 2022 Update以降はすべてのデバイスで既定で有効です。またWindows Server 2016を除き、メモリ整合性(HVCI)、スマート アプリ コントロール、Sモードのいずれかが有効な場合にも適用されます。ブロックリストは四半期ごとに更新され、加えて毎月のWindows Updateでも配信されます。

注意したいのは、Windows 10や、古い環境からアップグレードを重ねてきた端末ではHVCIが無効のまま運用されているケースが珍しくない点です。まず確認すべきはここです。

  • Windows セキュリティ アプリ →「デバイス セキュリティ」→「コア分離」→ メモリ整合性のオン/オフ
  • 同アプリ内の脆弱なドライバー ブロックリストのオン/オフ
  • 常に最新のブロックリストを適用したい場合は、Microsoftが配布する脆弱なドライバー ブロックリスト バイナリをApp Control for Business(旧WDAC)で適用する
  • ポリシー適用の確認は、イベントビューアーの「Microsoft – Windows – CodeIntegrity – Operational」でイベントID 3099 を確認する

なお、tdeio64.sysがMicrosoftのブロックリストに現時点で含まれているかどうかは、公開情報からは確認できませんでした。含まれていない可能性を前提に、後述のApp Controlによる明示的なブロックも検討する価値があります。

導入時の注意:Microsoft自身が警告しているとおり、ドライバーをブロックするとデバイスやソフトウェアが誤動作し、まれにブルースクリーンに至ることがあります。App Controlでポリシーを適用する場合は、必ず監査モードで先に検証し、監査ブロックイベントを確認してから適用モードへ移す手順を踏んでください。また、すでに読み込まれているドライバーはポリシー適用だけでは止まらず、再起動が必要です。

情シスはどうすべきか

本件について自前の長大なチェックリストを作るより、公的・一次のガイドに沿って動くほうが確実です。

  • Microsoft が推奨するドライバー ブロックの規則:ブロックリストの適用手順、App Controlポリシーの配布、監査モードでの検証まで一次情報がまとまっています。まずはこちらを。
  • Defenderの攻撃面削減(ASR)ルール:「悪用された脆弱性のある署名済みドライバーの悪用をブロックする」を有効にすると、脆弱ドライバーのディスクへの書き込みを防げます。ただし既存ドライバーの読み込みは止まらないため、ブロックリストとの併用が前提です。
  • IPA「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」:端末の標準構成管理、管理者権限の付与ルールといった土台の整理に有効です。
  • 利用者側の啓発:BYOVDの多くは、フィッシング等で一般ユーザー権限の足場を作られたあとの「2手目」です。初手を防げれば権限昇格の出番はありません。IPAの対策のしおりを使った地道なユーザー教育は、遠回りに見えて確実に効きます。

現場目線の所感

正直なところ、この手の通知が来ると気が重くなります。CVEが1本のアプリケーションに紐づいているなら「バージョンを上げてください」で終わりますが、OEMが出荷イメージに入れた素性のよく分からないドライバーとなると、自社に入っているかの把握からして怪しい。しかも今回は修正版がありません。特にやりきれないのは、資産管理ツールの画面をいくら眺めてもこの種のドライバーは出てこないことです。ソフトウェア一覧は綺麗に整っているのに、その下のカーネル層には誰も棚卸ししていないものが眠っている。「見えているものは管理できているが、見えていないものが管理できていない」という当たり前の事実を、こういう通知のたびに突きつけられます。

ただ、今回は考え方を切り替えると気が楽になります。個別のドライバーを追いかけるゲームは、そもそも情シスの人員では勝てません。3年前から研究者が名指ししていたドライバーに今ようやくCVEが付いた、という事実がそれを物語っています。追いかける代わりに「既知の脆弱ドライバーは一律で読み込ませない」という面の設定を1回入れておけば、今回のCVEも、来月出てくる別のドライバーも同時に片付きます。棚卸しに時間を溶かすより、HVCIの有効化状況を全社で確認するほうが、同じ工数でずっと遠くまで守れます。

まとめ

  1. Pegatron製ドライバー tdeio64.sys に権限昇格の脆弱性2件(CVE-2026-14960 / CVE-2026-14961)。カーネルの任意読み書きからSYSTEM奪取に至り、ベンダー修正版は未提供
  2. CVSSは 9.8と6.2 に割れているうえ、NVD本体は両方「評価予定なし」。スコアではなく「取られる権限」と「資産の重要度」で優先度を判断する
  3. 署名済み脆弱ドライバーは持ち込まれる(BYOVD)ため、自社PCの機種に関わらず対処が必要。最優先はメモリ整合性(HVCI)/脆弱なドライバー ブロックリストの有効化確認

同じく「カーネル・管理層の権限を取られる」型の事例としてServerView Agentsに権限昇格の脆弱性 対応の要点、機器が内部侵入の踏み台になる構造としてリコー複合機のSSHに脆弱性、内部への踏み台の恐れも併せてご覧ください。

出典

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