Webサイトに掲載したファイルの中身が個人情報漏えいの原因になる——長野県が、公共工事の入札情報として公開していた設計図に、周辺の土地所有者の氏名・住所を載せたまま掲載していたことがわかりました。攻撃を受けたわけではなく、「公開前のチェック漏れ」で起きた漏えいです。同種の事故は自治体だけでなく、一般企業のサイトでも十分に起こり得ます。本記事では事実関係を整理したうえで、情シスが自社の「公開ファイル」をどう点検すべきかをまとめます。
この記事でわかること
- 長野県の入札情報システムで何が起きたのか(規模・原因)
- なぜ「攻撃されていないのに」個人情報が漏れるのか
- 自社サイトの公開ファイルに潜むリスクと、公開前の点検の勘所
何が起きたのか
長野県は2026年7月23日、入札情報システムで公開していた工事関連の図面に、個人情報が記載されたまま掲載していたと公表しました。報道によると、道路や建物などの設計図に、周辺の土地の住所と所有者の氏名が記載されており、それがそのまま公開されていたとされています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 発覚 | 2026年6月25日、職員が入札情報システムの確認作業中に発見 |
| 公表 | 2026年7月23日 |
| 漏えい規模 | 6部局・219件の図面、対象者は1,590人分の氏名・住所(報道ベース) |
| 対象期間 | 2021年以降に公開された案件を調査対象に |
| 対応 | 入札情報の公開を一時停止。個人情報を確認した11案件は入札手続きを中止し再公告予定 |
公開されていた個人情報の悪用は、報道時点では確認されていないとされています。とはいえ、氏名と住所という機微な情報が長期間ネット上に置かれていたこと自体が問題です。調査は全体の一部(約35%にあたる5,992件)を対象にした時点の数字であり、確定値ではない点に注意が必要です。
なぜ「攻撃されていないのに」漏れるのか
結論から言うと、外部からの攻撃ではなく「本来は載せるべきでない情報が入ったファイルを、点検せずに公開してしまった」のが原因だと考えられます。今回のように設計図・図面には、業務上必要な範囲で周辺住民や地権者の情報が含まれることがあります。それを公開用の資料に転用する際、個人情報を消し忘れる(マスキング漏れ)と、そのまま世の中に出てしまいます。
この種の事故は、次のような「見えにくい情報」でも起こります。情シスが警戒すべきポイントです。
- 図面・帳票内の記載:本文ではなく添付図面やPDFの中に氏名・住所・電話番号が書かれている。
- Excel/PDFの非表示情報:非表示の行・列・シート、フィルタで隠しただけのデータ、セルのコメント。見た目には出ていなくてもファイルには残る。
- 黒塗り(墨消し)の不備:PDFで黒い四角を上に重ねただけだと、下の文字をコピーできてしまう。画像化やテキスト削除を伴わない「見かけだけの黒塗り」は漏えいの定番。
- ファイルのメタデータ:作成者名、社内パス、変更履歴(トラックチェンジ)、写真の位置情報(EXIF/GPS)などがプロパティに残る。
想定されるリスク
一度ネット上に公開されたファイルは、検索エンジンのキャッシュや第三者による保存で、削除しても完全には消えないと考えるべきです。氏名・住所がひとたび出れば、なりすまし・不審な勧誘・嫌がらせなどの二次被害の火種になり得ます。企業の場合は、取引先や従業員の情報が同様に漏れれば、信用毀損に加え、個人情報保護法上の漏えい報告(個人情報保護委員会への報告・本人通知)の対象となる可能性もあります。
現場目線の課題
正直なところ、この手の事故は「担当者が悪い」で片づけられるものではありません。図面やPDFは業務部門が作って情シスを通さずに直接サイトへ載せることが多く、情シスの目が最後まで届きにくい領域です。しかも「非表示にしただけ」「黒塗りしただけ」で消えたつもりになってしまう——ツールの仕様を知らないと気づけない落とし穴が多いのが厄介です。限られた人員で、部門が個々に公開するファイル全部を一枚一枚チェックするのは現実的に難しい、というのが多くの現場の実感ではないでしょうか。
情シスはどうすべきか
だからこそ、属人的な注意力に頼るのではなく「公開前の点検を仕組みにする」ことが要になります。特別なチェックリストを情シスが一から作るより、まずは公的な指針を土台にするのが早道です。
- 公開フローに「掲載前レビュー」を1枚かませる:ファイルをサイトに載せる前に、作成者以外の目で「個人情報が含まれていないか」を確認する手順を業務ルールに組み込む。少なくとも氏名・住所・連絡先が本文と添付の両方に無いかを見る。
- 黒塗り・非表示は「削除」で行う:見た目を隠すのではなく、該当データそのものを削除する。PDFは正規の墨消し(redaction)機能を使うか、画像化してから再PDF化する。Excelは非表示行・列・シート、コメント、変更履歴を消してから公開する。
- メタデータを落としてから出す:Officeの「ドキュメント検査」やPDFのメタデータ削除で、作成者情報や変更履歴、写真の位置情報を除去する。当メディアの運用でも、アイキャッチ写真はEXIF/GPSを完全除去してから掲載しています。
- 啓発を地道に続ける:結局は「載せる人」がリスクを知っているかどうか。黒塗りや非表示の落とし穴、図面に潜む個人情報といった具体例を、業務部門向けの研修や注意喚起で繰り返し共有することが、最後の防波堤になります。
従業員・現場向けの啓発には、IPAの「対策のしおり」や、中小企業向けの「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」が使いやすい入口です。個人情報の漏えい時の対応や報告義務については、個人情報保護委員会の案内も確認しておくとよいでしょう。
中長期の視点
今回のように「2021年以降の案件をさかのぼって調査」となると、対象は膨大で確認だけでも大きな負担です。事後の総点検を避けるには、公開時点で止める仕組み——公開手順の標準化、テンプレート化、可能なら公開前のファイル検査を半自動化する——を積み上げていくしかありません。「うちは攻撃なんて受けていない」と思っていても、日々自分たちの手で情報を外に出している以上、その出口の点検こそが情シスの実務だと捉え直したい事例です。
まとめ
- 長野県が入札図面に地権者の氏名・住所を載せたまま公開し、219件・1,590人分が漏えい(報道ベース、調査は途中)。攻撃ではなく公開前の点検漏れが原因。
- 図面・PDF・Excelには、黒塗りの不備・非表示データ・メタデータなど「見えにくい個人情報」が潜む。見た目を隠すのではなくデータを削除してから公開する。
- 属人的な注意力ではなく「掲載前レビュー」を業務フローに組み込むこと、そして地道な啓発が最も効く。
出典
- 県サイトに個人情報記載の図面を掲載 – 長野県(Security NEXT, 2026-07-23)
- 長野県、入札情報で1590人分の個人情報漏えい ホームページに地権者名など掲載(信濃毎日新聞デジタル)
※ 図面に含まれていた個人情報の種類・件数は報道および県公表に基づく調査途中の数値です。最終的な確定値は今後変わる可能性があります。
